樹木葬のメリット・デメリット
多様化する弔いのかたちのなかにおいても、「樹木葬」は比較的よく知られたものです。
多くの人に愛されるこの「樹木葬」について、
- ・樹木葬とは何か
- ・樹木葬のタイプ
- ・樹木葬のメリット
- ・樹木葬のデメリット
を解説していきます。
樹木葬とは、樹木のなかで眠る埋葬形態のこと
樹木葬とは、「樹木のなかで眠る埋葬形態」のことを指す言葉です。
樹木葬にもさまざまな種類がありますが(後述します)、共通する点として、「木や花などの植物のなかで眠る方法であり、四季折々の移り変わりが楽しめるところで眠る方法であること」が挙げられます。
豊かな緑のなかで眠れる埋葬形態であるため、自然を愛する人に広く選ばれている選択肢です。
古今東西、「自然のなかに故人を還す」という方法は当たり前のように選ばれてきました。はるか太古に生きた人のご遺骨が、自然のなかから見つかったという話は決して珍しいものではありません。
ただ現在のように、明確な意図をもって、「樹木葬」というかたちで人を葬るようになったのは、日本においては1998年が最初だといわれています。臨済宗のお寺がこの樹木葬に取り組み、その後、樹木葬が日本各地に広まっていきました。
樹木葬を扱っている運営団体は非常に多く、現在はほぼすべての県で樹木葬を選べるようになっています。
葬儀のかたちが多様化していっている現在ですが、今後もこの樹木葬の広がりは続いていくものと思われます。
樹木葬のかたちについて
樹木葬のかたちはいろいろあります。
埋葬方法で分けた場合は、
- ・合葬(初めからご遺骨をほかの人と一緒にする)
- ・個別埋葬(合葬することなく、ずっと個人あるいは家族のみで過ごす)
- ・一定期間個別埋葬をしたのち、合葬とする(初めは個人あるいは家族のみで過ごし、三十三回忌のタイミングなどで合葬とする)
の3通りに大別されます。
また、樹木葬の種類としては
- ・里山型(自然の山のなかに眠る形式)
- ・公園型(公園のようになっている霊園で眠る形式)
- ・庭園型(ガーデンタイプの霊園で眠る形式。洋風ガーデンなどもある)
の3つがあります。
それぞれで性質も大きく変わりますから、事前にしっかり資料を集めて検討するとよいでしょう。
樹木葬のメリット5つ
ここからは、樹木葬のメリットについて取り上げます。
樹木葬のメリットは、
- ・費用が比較的抑えられる傾向にある
- ・自然に抱かれて眠ることができる
- ・永代供養を前提としているところが多い
- ・宗教や宗派が問われる可能性が極めて低い
- ・霊園を選べば個性も出せる
の5つが挙げられます。
それぞれ見ていきましょう。
・費用が比較的抑えられる傾向にある
樹木葬のメリットとして、「費用が抑えられること」が挙げられることは非常に多いといえます。
一般的なお墓を一から建てようとすると、200万円近くのお金がかかることも珍しくありません。しかし樹木葬の場合、50万円程度で埋葬することができます。また、最初から合葬されるプランを選べば、30000円台に抑えられることすらあります。
このため、「子どもに負担をかけたくない」「費用面での負担を抑えたい」と考える人には非常に向いている形態といえます。
ただこれはあくまで一般論です。「個別で、しかも広いスペースを、一等地にある樹木葬霊園で確保したい」という場合は100万円近くかかる場合もあるため、必ず見積もりを出してもらう必要があります。
・自然に抱かれて眠ることができる
樹木葬を選ぶ理由を「心情面」から考えるとするならば、「自然のなかで眠ることができる」もまた挙げられるでしょう。
樹木葬は、里山型にしろ公園型・庭園型にしろ、優しい自然のなかで眠ることのできるかたちです。四季折々の変化を感じ、風を感じ、鳥のささやきを感じながら安らかな時間を過ごすことができるのです。また残されたご家族も、亡き家族の埋葬されているシンボルツリーなどに手を合わせながら、自然の景色を味わうことができます。
植物を育てるのが好きだった人などの場合は、極めてメリットが多い形式だといえるでしょう。
・永代供養を前提としているところが多い
少子高齢化が進む現在において、「お墓を買ったとしても、それを受け継ぐ人がいない」という問題は非常に大きいものです。またたとえ子どもがいたとしても、不仲であったり、遠方に住んでいたりすれば、当然お墓の面倒を見ることが難しくなります。
しかし樹木葬の場合、もともと「墓石」を有しないため、墓石(やお墓のあるスペース)が荒れ果てることはありません。基本的には運営者側がある程度の手入れをしてくれるため、いつまでもきれいな墓所を保つことができます。
「永代供養」の定義づけは難しいものですが、「お墓が荒れないように管理してもらえること」を「永代供養である」とするのであれば、樹木葬は永代供養を前提としている埋葬方法だといえます。
そのため、子どもがいない人や子どもが墓守を務められない家庭、また子どもに負担をかけたくない人によく選ばれています。
なお、「ただ管理をしてもらえるだけでなく、ご僧侶様による読経をしてもらえることが永代供養である」と解釈する人もいるでしょう。そのような場合は、寺院が運営する樹木葬霊園を選ぶことが原則です。そのうえで、その樹木葬霊園の規約や運営方針をよく読み、「毎朝読経をしてもらえる」「折々の節目で読経をしてもらえる」としているところを選ぶようにしなければなりません。
上でも述べたように、「永代供養」の解釈は一通りではありません。そのため、「永代供養付き」としている樹木葬霊園であっても、「実際に行うのは樹木葬霊園の管理や掃除であって、読経までは行わない(そもそも民間団体が運営元なので、読経はできない)」としているところも多く見られます。
・宗教や宗派が問われる可能性が極めて低い
樹木葬の場合、宗教や宗派が問われる可能性が極めて低いというメリットもあります。
「生前の宗教・宗派は問わない」としているところが多く、間口が広くとられています。
特に日本においては比較的珍しい宗教を信じている人にとっては、樹木葬は第一の選択肢となりうるでしょう。
特徴的なのは、「たとえ寺院が運営している樹木葬霊園であっても、生前の宗教や宗派は問わず、だれでも受け入れる」としているところが多い点です。また、寺院が運営している樹木葬霊園でも、檀家になることを迫られる可能性はほとんどありません。そのため、宗教への帰属意識が高くない人や、宗教によらない埋葬を選びたい人、菩提寺とはすでに縁が遠くなっている人にも選びやすいスタイルだといえます。
民間の運営団体が運営している樹木葬霊園の場合はこの傾向が特に顕著で、「宗教・宗派は問わないし、そもそも無宗教でも受け入れる」としているところが多くみられます。
ただ、「樹木葬ならば、どんなところであっても宗教や宗派は問われない」と考えるのは間違いです。ごく少数ではありますが、「埋葬できるのは在来仏教の信者のみ」としている樹木葬霊園もあります。このため、必ず確認する必要があります。
・霊園を選べば個性も出せる
樹木葬は自然のなかで眠るという形態であるため、個性がほぼないと考えられがちです。
しかし実際には、かなり個性豊かな樹木葬霊園も誕生しています。
たとえば上で挙げたような景観にこだわったところもありますし、樹木葬ではあるもののプレートをおけるものや、自分好みの木を選べるところなどもあります。
なお、「自分で木を選べる」としている樹木葬霊園の場合も、無分別に好きなものを選べるわけではなく、樹木葬霊園の運営側が提示するいくつかの選択肢のなかから選ぶかたちが一般的です。そのすべてをここで紹介することはできませんが、たとえばヤマツツジやハナミズキ、サクラなどがその代表例です。
また、樹木葬霊園のデザイン自体も多岐にわたっており、近代的でモダンなものもあれば、伝統的で落ち着いたところもあります。墓地全体のデザインも、霊園を決めるうえでのポイントだといえます。
樹木葬のデメリット4つ
このようにメリットの多い樹木葬ですが、デメリットもあります。
物事を判断する際には、「デメリット」も把握することも重要です。
ここでは樹木葬のデメリットについて取り上げます。
- ・災害に弱い
- ・寂しく見える季節もある
- ・改葬ができないところも多い
- ・親族の理解を得られにくい
- ・災害に弱い
樹木葬は、自然のなかで眠るスタイルです。そのため、自然災害の影響を否応なく受けることになります。里山型の場合は山火事などが起きる可能性がゼロではありませんし、台風や地震によってシンボルツリーが倒れる可能性もあります。
このような「自然災害の影響を受ける」というデメリットは、一般的な屋外型の墓地でも同じではあります。
しかし一般的な屋外型の墓地は、「石」である墓石を使っているため、墓石自体がなくなってしまうことは基本的にはありません。また墓石に彫り込まれた文字で、「その墓石がどの家のものか」を断定することもできるでしょう。
しかし樹木葬の場合、木が倒れてしまった場合、このような特定を行うことが難しくなる可能性もあります。
・寂しく見える季節もある
「四季折々の景色が楽しめること」は、樹木葬における大きな魅力です。植物は四季の影響を受けて、あるときは咲き誇り、あるときは葉の色を変えて、静かにたたずみます。このような「景色の移り変わり」を永眠してなお味わえるのは、樹木葬の非常に大きなメリットです。
ただ、その分デメリットもあります。
その樹木葬霊園が採用している植物の種類によっては、「冬の間は閑散とした雰囲気になってしまい、非常に寂しい状態になる」などのような可能性もあります。葉っぱが落ちてしまった植物を見て、ショックを受ける人もいるかもしれません。
現在はこのような点に配慮した樹木葬霊園もありますし、自然の景色が移り変わっていくのはある意味自然なことではありますが、「寂しい雰囲気になるのは嫌だ」という人の場合は樹木葬が向かないこともあります。
・改葬ができないところも多い
樹木葬の形態は、それぞれの樹木葬霊園によって異なります。ただ、樹木葬は「一度埋めてしまうと、改葬が難しい形態の埋葬方法であること」は押さえておいた方が良いでしょう。
樹木葬の場合、埋葬段階で骨壺からご遺骨を取り出して地面に埋めるやり方をとるケースも多く見られます。このようなやり方を選ぶと、「やっぱり墓石を設けた墓所が良いので、改葬をしたい」と考えても取り出すことができません。また、ほかの人とご遺骨を一緒にしてしまう合葬においては、原則としてご遺骨を取り出すことはできません。加えて、ご遺骨を埋める場合は粉骨(ご遺骨を細かく砕くこと。専門の業者に頼むのが一般的)が必要となる場合もあります。
「骨壺のまま埋める」という形式をとる樹木葬霊園もないわけではありませんが、将来的に改葬を考えている場合は、必ず事前に確認しておく必要があります。
・親族の理解を得られにくい
新しい埋葬形態のなかでは、樹木葬は比較的理解が得られやすいかたちだといえます。
なぜなら樹木葬の場合、シンボルツリーという「手を合わせる対象」があり、かつ公共交通機関などで墓地にも足を運びやすいからです。また、「自然の息吹を感じながら眠ることができる」という点も、従来型の墓地と共通しています。そのため、手を合わせる対象のない海洋葬や、屋内で過ごすこととなる納骨堂に比べれば、比較的周りの人にも納得してもらいやすいでしょう。
しかしそれでも、「墓石を持たない」というかたちであるため、従来型のお墓を考えている人にとっては、少し受け入れがたいものかもしれません。
そのため、事前にしっかり話し合う必要があります。
樹木葬のメリットとデメリットを把握することが重要
樹木葬にしろほかの埋葬方法にしろ、「デメリットだけしかない埋葬方法」も「メリットだけしかない埋葬方法」もありません。
それぞれの埋葬方法にメリットとデメリットがありますし、特徴があります。
大切なのは、「それぞれの埋葬方法の特徴を知り、自分や家族の希望する眠り方と合致するところが多い選択肢を選ぶこと」です。
樹木葬は現在非常に注目を浴びている埋葬方法ではありますが、樹木葬自体のメリットとデメリットをよく知ってから選ぶ必要があります。
また、同じ「樹木葬」であっても、霊園ごとに考え方や埋葬プラン、金額が変わってくるので、必ず事前に資料を取り寄せる必要があります。加えて、前述したように、樹木葬は季節によって景観が変わるため、できれば季節ごとに足を運んでから決めたいものです。
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