粉骨について
ご遺骨を砕く「粉骨」、それが意味するものと粉骨を行わなければいけない場合
葬儀のかたちも弔いのかたちも、現在では多様化しています。そのなかで生まれた考え方のひとつとして、「粉骨」があります。 今回はこの「粉骨」について解説していきます。
粉骨とは、ご遺骨を砕くことをいう
まず、「粉骨とは何か」から解説していきます。
粉骨は、「ふんこつ」と読みます。読んで字のごとく、ご遺骨を細かく砕くことをいいます。 「何ミリ以下になれば『粉骨をした』といえるか?」という明確な基準はありませんが、 おおむね2ミリ以下になることを「粉骨」とするケースが多いといえます。 なおこの「2ミリ以下」の理由については後述します。
「大切なご遺骨を砕くなんて!」と驚く人もいるかもしれませんが、粉骨には多くのメリットがあります。 また粉骨をしなければ選べない(極めて選びづらい)埋葬方法があるという理由もあります。 そのため、粉骨は葬儀・埋葬の分野において、しばしば取り上げられる考え方です。
なお、「粉骨は、ご遺骨を砕いてしまう行為だから、死体・遺骨損壊罪にあたるのではないか」と心配になってしまう人もいるかもしれません。 しかしこの罪は、あくまで「社会通念上からみたとき、一般的な埋葬とは認められないかたちで損壊・放棄すること」 に対して課せられるものですから、正規の手続きの元で行われ、かつ節度を以て行われた粉骨が罪に問われる可能性は極めて低いといえるでしょう。 そのため、このような法律を極端に恐れる必要はありません。
粉骨と深く関わる「散骨」について
粉骨についての解説をしていこうと考えたとき、「散骨」について触れないわけにはいきません。
散骨とは、ごく簡単に言うのであれば、「どこかにご遺骨を撒くこと」となります。
一般的には、人は亡くなった後には通夜や葬儀を経て、火葬に至ります。そして火葬後、収骨(骨壺にご遺骨を納めること)を行います。さらにそのあと、いくばくかの時間が経過したのち(仏教の場合は四十九日法要や一周忌をきっかけとすることが多いが、明確な法律的な決まりは存在しない)、納骨式を執り行います。納骨式の後、ご遺骨をお墓や納骨堂に納めます。 このような手順を経て、亡くなった人は「埋葬」されることになります。 なお日本では火葬によって処理されることが非常に多く、火葬の実施率はほぼ100パーセントです。水葬や土葬などが行われる可能性もゼロではありませんが、これは非常に条件が厳しく、実際はほとんど選ばれていません。たとえば水葬の場合は、
- 航海中の船のなかで、乗組員や乗客が息を引き取った場合で
- 死後24時間以上経過していて
- 衛生上の問題でご遺体を船の中にとどめておくことが難しく
- ご遺体が浮かび上がらないような工夫をし、必要に応じて消毒を行った状況でのみ許可される、とされています。
こういった事情があるため、日本で亡くなった場合は基本的にご遺骨が「発生」することになりますし、そのご遺骨を埋葬する必要があります。
現在多様化している埋葬方法のなかで、粉骨と関わるものとして挙げられるのが上記でも少し触れた「散骨」です。
散骨においては、特定のお墓や、ご遺骨を納めるための納骨堂を持ちません。骨壺から出したご遺骨を、自然のなかに撒き、埋葬していくのです。
散骨の種類
散骨にはいくつかの種類があります。
- 海洋葬
- 樹木葬
- 宇宙葬
なおそれぞれ、「海洋散骨/樹木散骨/宇宙散骨」と呼ばれることもあります。
詳しくみていきましょう。
- 海洋葬
非常にメジャーな散骨の形態です。チャーター船で海に出て、そこでご遺骨を撒く形式をいいます。
これは「個別散骨」「合同散骨」「委託散骨」の3パターンに分けられます。個別散骨は個人で船をチャーターして海に出るものです。 合同散骨は、同じように散骨を希望する他の人たちと船に乗り合わせて海に出ます。そして委託散骨は、業者に散骨に依頼するものです。 費用の負担は、個別散骨>合同散骨>委託散骨、となります。
この海洋葬を選んだ場合、どのプランを選んでも、ご遺骨を手元に戻すことは二度とできなくなります。 ご遺骨は海の中に漂うわけですから、いかなる場合でも改葬はできないのです。
- 樹木葬
山や森、庭園型になっている霊園などにご遺骨を埋葬する方法です。
この方法は比較的多様化しているため、「散骨しかできない」としているところばかりではないため注意が必要です。
散骨で弔う方法もありますが、「布などに入れたまま埋葬する」という方法を選べることもあります。 また、ご遺骨を骨壺から取り出してほかの人のご遺骨と一緒に混ぜて埋葬する方法(合葬)を選ぶこともできれば、 骨壺から取り出して個別(あるいは家族)と一緒に1本の木の下に眠る方法を選ぶこともできれば,骨壺から取り出さずに埋葬する方法もあります。 最後の「骨壺から取り出さずに埋葬する方法」を選べば、樹木葬であっても、散骨・粉骨の必要はありません。また最後のやり方の場合、 お金ができたらお墓に移すこともできます。 - 宇宙葬
あまりなじみがないものかもしれませんが、非常に個性的な弔いのかたちとして「宇宙葬」があります。
小さなカプセルにご遺骨を入れて、それをロケットに積み、宇宙に打ち上げて弔う方法をいいます。
非常に独創的でロマンチックな方法で、近年注目を集めています。なおこの方法も、海洋葬と同じで、手元にご遺骨が残らないため、改葬などはできません。
なお、「ご遺骨を自分の家の庭に散骨してもよいか?」という質問を持つ人もいるかもしれません。
これに関しては、明確に、「法律によって禁止されている」とまでは言い切れません。
ただ都道府県などの迷惑防止条例に触れる可能性はゼロではありませんし、周りの人の心情面を考慮すれば少なくとも積極的におすすめできる方法ではありません。
また、自宅の庭に新しくお墓を建てることは原則として禁じられています。
一部、非常に特別な条件をクリアした場合(人里から非常に離れており、墓地が設けられる予定が皆無である場合など)のみ許可されることもありますが、
基本的には不可能です。ただし、現在の法律「墓地埋葬等に関する法律(昭和23年発行)以前に建てられた「自宅の庭にある墓地」については、
取り壊しの必要はありません。
なぜ粉骨が必要か? 散骨において粉骨をする意味と、「2ミリ以下」の根拠
上記で挙げた「散骨」をする場合には、粉骨がほぼ必須条件といえます。
その理由について考えていきましょう。
「ご遺骨」は、非常にデリケートなものです。心情的・精神的な面から考えた場合、
扱いに慎重さが求められるものであることは、だれもが理解できることでしょう。
たとえば、「海で釣りをしていたら、人骨がそのまま出てきた。ほかの人が散骨したときのご遺骨だった」となれば、
衝撃を受けて後々まで引きずることになりかねません。
このように、「周りの人への気遣い」から生まれたのが、「粉骨」という考え方です。
海洋葬や樹木葬、宇宙葬においては粉骨することが大前提となっているのはこのためです。
日本の法律では、「粉骨を行う際は、〇ミリ以下にまで砕くべし」というような明確な基準は設けていません。
しかし粉骨を行う業者は「2ミリ以下」をひとつの基準としており、また海洋葬・樹木葬・宇宙葬を執り行う業者も、
この「2ミリ以下」を条件としているところも多くみられます。なお、海洋葬などを執り行う業者のなかには、
「粉骨も当社で行います」としているところもあります。
この「2ミリ以下」という数字は、欧米諸国のルールによるものだといわれています。
日本では明確には定められていないものの、欧米諸国の基準として「2ミリ」があるため、日本もそれに倣っていると考えられます。
そのため、実際にはもっと細かい(0.2ミリ以下など)になるまで粉骨を行う業者もいます。
「弔いを行うときに最優先されるのは、故人の意思でありご家族の意思だが、周りの人への配慮」という価値観によっても、 粉骨の概念は作られたと考えることもできるかもしれません。
粉骨は、「家のお墓の許容量がいっぱいになりそうなとき」にも使える
さて、上記では「粉骨は、主に散骨を行うときに周りの人への配慮から行われる」としました。
しかし粉骨は、散骨のためだけに行われるわけではありません。すでに自分たちのお墓を持っている人が、粉骨を選択する場合もあります。
1つのお墓(墓地)に入ることのできる人数は、広さによって決まっています。 明確に「〇人以上のご遺骨を入れられるスペースを確保しなければならない」「〇人以上のご遺骨は入れてはならない」 などのような決まりがあるわけではありませんが、1つのお墓に入れることのできるご遺骨は、おおむね6~8人分程度だといわれています。
そのため、いわゆる「先祖代代之墓」を継いでいる場合は、ご遺骨の収納室(カロート)がいっぱいになってしまう可能性もあるのです。 だいたい3~4世代程度を埋葬すれば、「許容収容数」に達してしまいます。
このようなことを避けるための方法としても、「粉骨」が使われます。
粉骨を行った場合、ご遺骨そのままの状態に比べて、かさが6分の1程度になるとされています。
そのため、より多くの人を収容できるようになるのです。
「骨壺から出して、ご遺骨を布の袋にくるんで埋葬する」という方法でも省スペース化は可能ですが、
粉骨の方がより効率よくスペースを使えるようになるでしょう。
粉骨は、散骨をする人のためだけにあるのではなく、お墓を受け継いでいる人にとってもあるのです。
粉骨処理をした後に作ることができる「ご遺骨アクセサリー」について
弔いの方法に明るい人の場合、「ご遺骨アクセサリー」という言葉を聞いたこともあるかもしれません。 なおご遺骨アクセサリーは、「遺骨ジュエリー」などとも呼ばれますが、ここでは「ご遺骨アクセサリー」に統一します。
ご遺骨アクセサリーとは、亡くなった方のご遺骨を利用して作るアクセサリーをいいます。
ご遺骨自体をダイヤモンドに加工したり、ご遺骨をペンダントなどに封じ込めたりするやり方があります。
安価で利用できるのは後者の方で、このタイプのご遺骨アクセサリーと粉骨は密接に関わっています。
ご遺骨アクセサリーでは、まずご遺骨を粉末にし、それをペンダントトップなどに封じ込めます。 パウダー状になったご遺骨をアクセサリーに入れることで、世界にたった一つのご遺骨アクセサリーが誕生するのです。 なおご遺骨アクセサリーの種類は多岐に及んでおり、ペンダントだけではなく、指輪やブレスレットに加工することもできます。
現在のご遺骨アクセサリーは非常にファッショナブルなものが多く、一般的なアクセサリーと変わらない形をしています。 大切な人といつも一緒にいられるご遺骨アクセサリーを作るために、粉骨という手段を選ぶ人もいます。
粉骨は自宅で? それとも業者に頼む?
最後に、「粉骨はだれが行うか」についてみていきましょう。
粉骨は、業者に頼むのが一般的です。
業者によってやり方は異なりますが、手作業で行う方法と機械で行う方法の2通りがあります。
手作業で行う方が値段が高く、機械に任せるやり方だと値段が安くなるのが一般的です。
なお、業者によっては、粉骨作業の立ち合いができる場合もあります。
粉骨にかかる時間は、作業方法や業者によって異なります。機械の場合は速く、手作業の場合は遅くなります。
ただ、長い場合でも3時間程度もみておけば問題ないでしょう。
※粉骨を希望する場合は、必ず業者に一度事前に連絡をしてください。
「自分の愛した人だから、最後まで自分で面倒をみたい」と考える人もいるかもしれません。
その場合は、自宅で粉骨を行ってもよいでしょう。自宅で粉骨を行っても、法律上は問題ありません。
時間はかかりますしコツや道具も必要ですが、愛した人に向き合うという意味では、自宅で粉骨を行うことにも意味があります。
自宅で粉骨を行う場合、手袋や木づち、すり鉢や乳棒を用意します。
まずご遺骨をよく乾燥させます。その後に、袋にご遺骨を入れて木づちで叩いたり、すり鉢と乳棒でご遺骨を小さくしていったりします。
なお、小さくしたご遺骨は、高性能のフードプロセッサーなどでも砕くことができます。
「粉骨」は、ご遺骨に向かい合う作業のうちのひとつです。
選択肢のひとつとして覚えておくとよいでしょう。