身寄りがない人の葬儀・お墓
身寄りがない人の葬儀・お墓の対応~自分が死んだ後の後始末について
少子高齢化やライフスタイルの多様化が進み、「生涯にわたって子どもを持たなかった人」「親族との関わりの一切を絶って一人きりで生きる人生を選んだ人」もみられるようになりました。また、たとえ子どもや兄弟姉妹に恵まれた人であっても、不幸にして早くに死に別れ、結果的に身寄りがない状態になってしまった人もいるでしょう。
そのような人が亡くなった場合、葬儀やお墓はどうなるのでしょうか。
それについて解説していきます。
なおここでは、特段の記載がない限りは、「故人は特定の宗教を信じていたわけではないが、ご親族は仏教徒であった」「故人の宗教への帰属意識は高くはないが、一応仏教徒であった」という状況を想定しています。
<身寄りがない人が亡くなった場合、原則として「親族」が面倒をみる>
「身寄りがない人」には、大きく分けて2通りがあります。
1つは、「本当に親族縁者がだれもおらず、戸籍上でも血縁上でも完全に孤独で、連絡がつく相手がいない人」です。
そしてもう1つは、「身寄りがないとされているが、あくまでそれは『現在連絡をとっていないご親族しかいない』というだけで、血のつながったご親族自体は生きている」という場合です。
どちらの「身寄りがない人」であるかで、葬儀のときの対応は異なってきます。
たとえば、「現在連絡をとっているご親族がいないというだけで、実際には血のつながった親族は存命中である」という場合は、その親族に連絡がいきます。連絡をとるのは役所であり、戸籍をたどって「現在連絡をとっていないご親族」に連絡をとるわけです。
役所の仕事としてご親族を探し出すことになるため、たとえ絶縁状態であっても、長く会っていなかったとしても、連絡がいくことになります。実際に、「血のつながった子どもではあるが、親との折り合いが非常に悪く、もう10年以上会っていなかった」という人に対しても連絡がいくこともあります。
このような流れをとるため、「まったくの没交渉であったのに、ほとんど顔を覚えてもいない親族のために葬儀を行わなければならなくなった」というケースもみられます。
しかし、「本当の意味で『身寄りがない』状態で、血のつながったご親族が一人もいない(たどることができない)」という場合もあるでしょう。また、「遺体の引き取りを強くきょぜつされてしまった」などのケースもあります。
故人が、生活圏内で多くの人と親しくしており、地域の人と密接な関わりがあった場合は、彼らが葬儀を行ってくれる可能性もあります。
そのような状況もなく、まったくの孤独であった場合は、死亡時に住んでいたところの自治体がご遺体を引き取り、葬儀を行うことになります。
<身寄りがない人の葬儀はどのような形態をとるのか>
それでは、このような「身寄りがない人の葬儀」はどのような形態をとるのかをみていきましょう。
「しばらく会っていなかったが、血がつながっているということで連絡が来たからにはある程度きちんとやってあげたい」と連絡を受けたご親族が考えた場合は、通夜~葬儀・告別式を含む一般葬が営まれる場合もあります。ただ、このようなケースは極めてまれでしょう。
「身寄りがない(あるいはそれに近い)状態」であった人の葬儀は、非常に簡潔に営まれるのが基本です。連絡を受けたご親族が、故人の住んでいたところの近くにある葬儀会社に連絡をし、「もっとも簡潔なプランでお願いをする」と依頼することが多いといえるでしょう。
ご親族の考え方や葬儀会社のスタイルによって多少の違いはありますが、このようなケースでは、「直葬(火葬式)」のかたちがとられるのが一般的です。
直葬(火葬式)とは、「通夜や葬儀・告別式を行わず、棺に入れた個人を火葬炉の前に運び、簡単なお別れをして火葬をし、収骨を行う」という方式です。基本的には食事はふるまわれず、ご僧侶によるお別れの儀式なども行われません(※ただし、「お経だけはあげてほしい」などのような希望があれば、ご僧侶を呼んでお経だけをあげてもらうことはできます)。
直葬(火葬式)は、あらゆる葬儀のなかでももっとも簡素化されたかたちの葬儀です。特段の事情がない限りはごく限られた出席者(この場合は、連絡を受けたご親族とその配偶者までなど)だけで行われます。
そのため費用も安く、20万円程度で行えることもあります。ご僧侶を呼ばないかたちをとることが多いため、お布施なども必要がなく、金銭的な負担が少ないのも特徴です。また、時間もあまりかかりません。ただし火葬には一定の時間がかかりますから、3時間程度はかかると考えておいた方がよいでしょう。
身寄りがない人の葬儀を自治体が行う場合も、非常に簡素なスタイルをとります。
葬儀は、「残された人が故人を悼んで行うもの」であるので、身寄りがない人の葬儀に関しては簡略化されたかたちで営まれるのです。
なお日本は「原則的に、ご遺体はすべて火葬にする」というやり方をとっているため、火葬自体を避けることはできません。
<身寄りがない人の葬儀、それを引き受けた場合の費用はだれが負担するのか>
「一応血縁関係にあるので葬儀~埋葬自体は引き受けたが、正直顔も覚えていない人のために多額のお金を費やすのは苦しい」
「自分自身も生活保護を受けているので、親族の葬儀までを行うのは難しい」という人もいるでしょう。
そのような場合のために、補助金制度があります。なおここでは「身寄りがない人が亡くなったときに利用できる補助金制度」としていますが、実際には身よりがある人が亡くなった場合でも利用できるものです。
・葬祭費及び埋葬料
「葬祭費」とは、国民健康保険の被保険者だった人が亡くなったときに給付されるものです。また、社会保険や共済組合に入っていた人の場合、「埋葬費(埋葬料)」として補助金が受けられます。
葬祭費の場合の支給額は自治体によって異なりますが、50000円~70000えん程度です。現在は50000円としているところが多いかと思われます。
埋葬費(埋葬料)に関しては、上限が50000円と決められています。
上でも述べたように、身寄りがない人の葬儀(直葬・火葬式)の場合はだいたい20万円程度かかりますから、この補助金を受けても負担が0になるわけではありません。ただそれでも、4分の1くらいはこれで賄えると考えれば、かなり大きい数字だといえるでしょう。
・葬祭扶助制度
「生活保護を受けていた人が亡くなった」「喪主を務めることになる家族も困窮していて、生活保護を受けている」「扶養義務者がそもそもおらず、故人が住んでいたアパートの大家などが葬儀を出す」などのようなケースのときに利用できるのが、この「葬祭扶助制度」です。
葬祭扶助制度は金額が決まっていて、大人の場合は20万60000円、子どもの場合は16万4800円とされています。この金額内で葬儀を行った場合、自己負担額が0となります。
ただ一点注意してほしいのは、「葬祭扶助制度を利用した場合、その上限額を超える葬儀を行うことはできない」という制約がある点です。
たとえば、「葬祭扶助制度で20万6000円が支払われるので、自分たちの財布から50000円を出して戒名をつけてもらう」などのようなことはできないようになっています。
また葬祭扶助制度によって認められるのは、ご遺体の運搬や火葬・埋葬などの、ごく基本的な弔いのみです。
なお自治体が身寄りのない人の葬儀を行う場合は、葬儀費用を自治体が受け持つことになります。また故人の遺産を清算し、葬儀費用にあてられると判断された場合は、それによって充当することになります。
<身寄りのない人の埋葬に関して~身寄りのない人のご遺骨はどこへ行く?>
身寄りのない人はこのようにして火葬まで済ませられることになりますが、それでは、「火葬にふした後のご遺骨」はどうなるのでしょうか。
それについて解説していきます。
「没交渉ではあったが、ご親族に引き取られた」という場合は、ご親族の方で埋葬箇所を探すことになります。先祖代々のお墓があるのであればそこに入れることもできますし、それがない(あるいはあっても入れたくない)という場合はほかの選択肢を考える必要が出てきます。
「ほかの選択肢」としてよく上がるのが、「合同墓」でしょう。
合同墓とは、霊園の一画に存在することが多いもので、骨壺から出したご遺骨をほかの方のご遺骨と一緒に埋葬する方法をいいます。個別の墓石や個別の墓所を必要としないため、非常に費用が安くつくのが特徴です。なかには50000円程度で利用できる合葬墓もあります。
またこの形式は、霊園の運営者によってお墓が維持されるため、ご親族が手入れに訪れる必要がないというメリットもあります。寺院運営の霊園を利用する場合、毎日お経をあげてもらうことができる場合もあります。
ただし合葬墓の場合、「骨壺からご遺骨を取り出して、ほかの人のご遺骨と混ぜて埋葬する」というやり方をとるため、改葬を行うことはできません。
この「合葬」という形式は、樹木葬や納骨堂でもしばしばみられます。いずれの場合であっても、個別の墓所を確保することに比べれば格段に安いため、利用しやすいのが特徴です。
「血のつながったご親族がまったくいない」「ご親族にご遺体の引き取りを拒否された」などの場合は、ご遺骨の世話も、やはり自治体が行うことになります。自治体では火葬後のご遺骨及び故人の遺品を一定期間保存します。この保存期間は明確に決まっているわけではありませんが、おおよそ5年程度だとされています。その期間を過ぎた場合は、無縁墓にご遺骨が入れられることになります。また、無縁墓に入れられたご遺骨は、取り出すことはできません。
<家族の縁が薄い、身寄りのない人がやっておきたい生前の対策>
「家族の縁が薄く、まだ若いのに身寄りがなくなってしまった」「人とかかわると疲れるため、今後の人生においても一人で生きていこうと考えている」「身寄りのない状態で生きていくことに不安はないが、死んだ後に人に迷惑をかけるのは嫌」という人は、決して少なくはないでしょう。
このような人の場合は、生前にしっかり用意しておくことをおすすめします。
現在では、葬儀会社や霊園と生前に話し合い契約を結ぶ「生前契約」を選ぶ人もみられるようになりました。
葬儀会社に対して希望とする葬儀のかたちを伝え、霊園に連絡をしあらかじめ墓所の永代使用料を支払っておくのです。また、墓石も先に用意する(生前墓)こともできます。なお、「子どもがおらず、墓守をしてくれる人がいない」という場合は、合葬墓や永代供養墓(さまざまなタイプがあるが、ここでは「一定期間は個別埋葬され、一定期間が過ぎたのちに合葬墓に移されるかたち」)を選ぶとよいでしょう。また、樹木葬を選ぶのもひとつの手です。
財産がある場合は、遺言書の作成をしておくとよいでしょう。遺言書は自分で作ることもできますが、弁護士や税理士に相談しておいた方が安心です。遺言書は、形式を間違えると無効になってしまうからです。また、法的な拘束力はありませんが、終活ノートをしたためておくと、残された人が財産を把握しやすくなり、葬儀のやり方なども希望を反映しやすくなります。
ちなみに行政書士や司法書士との間で契約を結び、遺産の整理などをお願いするのもひとつの方法です。
「身寄りのないこと自体」は、不幸とも幸せとも言い切ることはできません。「自分は家族と縁をつないでいたかったが、みんな若くして旅立ってしまった」という人は悲しみのただなかにいますが、自らの意志で他者との交流を断ち切って生きている人に対しては不幸という言葉は当てはまらないでしょう。人の人生や生き方はひとそれぞれです。
ただそれでも、「死」はどのような人にでも必ず公平に訪れるものです。それは明日かもしれませんし、10年後かもしれませんし、30年後かもしれません。身寄りのない人にとっては、このだれにでも訪れる死は非常にコントロールがしにくいものです。そのため、できるだけ早く終活を行い、「自分が死んだ後の始末」について考えておく必要があるでしょう。
終活は、決して後ろ向きなものではありません。むしろ「これからの人生をどう生きていくべきか」を考えさせてくれる契機となってくれるものだといえます。
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